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「経済もそれと同じで、軍国主義の経済から民主主義の経済になった。
中央システムはまったく変わっちゃいない。
戦時体制で、とにかく強引に一般国民から軍需製品をつくり、それを持って兵隊たちが外地へ攻めていったように、同じ仕組みでつくられた箪需製品ならぬ輸出製品を持って、商社マンたちが世界中へセールスに飛び出して行った」大蔵官僚は、要するに日本経済の根幹である金融制度が、戦後も実質的に昭和十七年しているのだ。
「国家総動員体制のときと同じ仕組みで金券、その金を軍需産棄のかわりに輸出産棄に投入して、商社マンという兵隊が世界中に売り歩くことで高度成長をなし遂げた」非常時体制時の仕組みを戦争に負けた占領下も、独立後も頑固に固持しつづける。
その一方では、憲法、教育制度から一ドル三百六十円体嗣まで、押しつけられた服。
はどんな服でも見事に着こなしてしまう。
この頑固さと柔軟性は一見相矛盾するようだが、実は戦時体制の持続は、占領後も戦後復興。
一時的臨時措置だといってズルズル延ばしにしてきたわけで、いわば柔軟性そのものだと、人一方、押しつけられた服。
もどんな−服でも着こなすというのは、つまりすべてを自分のべ−スに引き込み、結局自分流に換骨奪胎するということなのだ。
こうしたわれら日本人の強靭さ、恐るべき柔軟性、したたかさについて、かつて元通産次官の両角良彦が「哲学がないのが日本人の最大の強み」だと指摘した。
「タテマエはただのタテマエで、ホンネは、要するに得か損かの判断しかない。
得になることはトコトンやる。
損になることは絶対にしない。
なまじっか哲学、理念がないために徹底できるわけですよ」また、両角の後輩にあたる通産官僚は、「戦後、日本人の唯一の拠りどころとなったのは民主主義ではなく、効率主義だ」といい切った。
よけいな哲学がなく効率主義に徹したがゆえの強靭き。
だが、こうした条件が成立するのは、その存在が世界の国々にとって目障りにならない弱小国であるときだ。
私は、あらためてU村健一、K隆雄代S木一弘などが、いずれも急成長を遂げて、既成勢力にとってはなはだ目障りな存在になったときに叩き演されていることを思い起こしていたが「ここまで経済大国になってしまったのだから、われわれ日本のやっていること、企業活動や経済活動が国際社会にどんな意味があるのか、どんな役割を果たしているのか、他国民に対して論理的に説明できるだけの理念、志を持つべきで、不分明だと、金儲けにしか関心がなく、国際社会に対する責任を負わない不徳の国、周囲に迷惑をまき散らす固として村八分にされてしまう」と指摘したことがあった日本流儀が国際社会では認知されず、だからグジャパン・プロブレムとなる。
私たち日本人が至極当然だと考えて行うことが、近隣窮乏など国際的なルール違反だということになる。
それとも生き残って既成勢力と共存し得るのか。
カネの大洪水の先には何があるかそれにしても、や7が何度行われでもドルは安定せず、日本列島には円高悲鳴が充満しながら、なおも円はじりじりと上昇を続ける。
五月のアメリカの国債発行は、ロン・ヤスの密約で日本勢がぎりぎりの段階で大量買いに出て、なんとかドル暴落金融恐慌は回避できたが、今後も国債は発行されるだろうし、もしも投資家たちがそっぽを向いたらドル暴落は必至。
しかもその時期には、頼りのヤスの政治力は間違いなく低下しているか、おそらく政権の座にはいないだろう。
つまり私たちはドル暴落世界金融恐慌と背中合わせ、というかいつ起きても不思議ではない何ともきわどい状態にあるのだ。
円高不況下で経済の実勢とはかけ離れた株価が不気味な高騰を続け、当事者たちが自虐的に「内実のない風船株価」だなどと口にするようになっているほどだ。
ある大手証券の社長が前代未聞の羅針盤も日標もない大洪水」という表現をした。
第一次産葉、第二次産業など、これまで世界を支えてきたグモノ産業。
を圧倒し、何もかも呑み込んでしまうようにおびただしいカネが恐るべき勢いで世界を駆けめぐっている。
まさにカネの大洪水だ。
この大洪水の先にあるのは恐慌、も新しい地平が現れるのか。
売上税が暗礁に乗り上げた直後、を重ねても、どうもドル安は止められそうにない。
世界経済のひずみは次第に大きくなり、随所で日本が袋叩きにされる。
げんにマネー−戦争でも米英が連係して日本勢を封じ込めと図っている。
どうすればいいのですか。
大蔵大臣室で宮沢喜一に会って。
大洪水の行方を間「問題は日本がやられるとかいじめられるなんてことじゃなく、世界経清が混迷、混乱しているわけだし、その根源は、そもそも国家という枠組み自体にさまざまな矛盾が噴出してきたのですよ」そのことを問うと、宮沢は「動くものと動かぬものの矛盾」だと答えた。
「カネがその象徴ですが、世界中をどんどん駆けめぐる。
製品も動く、工場も企業も動く。
国家行政、労働人口といったものは動かない。
動けない。
その動くものと動かぬものの矛盾、アンバランスが貿易赤字とか塞宋の空洞化なんて現象となっているわけで、逆にいえばカネも企業も国境を越えてどんどん動く時に、昔ながらの通関統計を、経済を計るモノサシにすること自体が問題だといえる」宮沢は「かつては当然一致していた国家と企業との利害が次第に食い違い、大きくなってきたようだ」と自分にいって聞かせるように語った。
国家と企業の利害の食い違いが大きくなれば、当然企業は国家離れを起こし、政治の力で強引に企業を守ろうとすると保護主義化してしまう。
世界恐慌のきわどい臨界をさまよいながら、一体破滅を回避してどこかに軟着陸できる可能性はあるのか。
そのことを問うと、宮沢は。
マドル・スルという言葉を口にした。
大蔵大臣室の書棚からウェアスターを持ち出してきて、マドル・スル−の項を示した。
「トゥ・マネ−ジ・サムハウでしょう。
サクシ−ド・イン・ワンズ・オブジェクト・イン・スパイト・オプ・ラック・オブ・スキル・アンド・オアサイト。
私はこの方法しかないと思いますよ。
硬直した、あるいは自己撞着的なイデオロギーや方程式に頼ることはむしろ危険で、安直な解決策を求めると保護主義や統制経済になりかねない。
大事なのは根気と柔軟性と強調性。
私は、マドル・スルは存外、日本人には合っていると思いますよ」宮沢は一言、念を押すようにいった。
半年前にもほぼ同じ意味のインクリメンタル・アプローチというが、その時には「他に方法がなどからと消極的に披露したのが、今度はいかにも自信ありげだった。
この字義自体は混沌としていて重苦しいのだが、宮沢はきわめて前向きの言葉として使っているようだつだ国家という枠組みと企業活動、いや経済活動との聞にさまざまの矛盾が噴出してきた。
たしかに貿易赤字、貿易黒生むというのも国家の通関統計の集積に過ぎず、圏外に出た企業の生産量はこの統計では把握でき守、たとえばIBMが日本の市場で生産したコンピュータをアメリカ本国に送ると、日本からアメリカへの輸出になるわけだ。
八五年七月五日付のロンドン「エコノミスト」に興味深い数字が出ている。
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